近年、自由な働き方として人気を集めるUber Eats(ウーバーイーツ)の配達パートナー。しかし、その収入に伴う「税金」の問題に、多くの人が頭を悩ませています。配達パートナーは会社員とは異なり、個人事業主として扱われるため、自身で収入と経費を管理し、確定申告を行う必要があります。
特に、2025年(令和7年)から所得税に関する大きな税制改正が施行されるため、これまでの知識だけでは対応できない可能性があります。この記事では、最新の税制改正内容を踏まえ、ウーバーイーツ配達員が知っておくべき税金の知識を、確定申告の要否から経費の計上、具体的な申告手順まで、網羅的に解説します。
確定申告は必要?2025年からの新基準を徹底解説
「自分は確定申告が必要なのだろうか?」これは最も多くの配達員が抱く疑問です。確定申告の要否は、ウーバーイーツの仕事を「専業」で行っているか、「副業」で行っているか、そして年間の「所得」がいくらかによって決まります。
専業の場合:年間所得「95万円」が新たなボーダーラインに
ウーバーイーツの配達を本業としている場合、確定申告が必要になる基準が2025年分(令和7年分)の所得から大きく変わります。
- 【2024年分まで】:年間の合計所得金額が48万円を超えると確定申告が必要でした。これは、すべての納税者に適用される「基礎控除」が48万円だったためです。
- 【2025年分から】:令和7年度税制改正により、低所得者層の基礎控除額が引き上げられます。合計所得金額が132万円以下の場合、基礎控除額が95万円に拡大されます。これにより、他に所得がなく、所得控除が基礎控除のみの場合、年間の所得が95万円以下であれば所得税がかからず、確定申告が不要になる可能性が高まります。
この改正は、多くの専業配達員にとって大きな影響を与える重要なポイントです。
副業の場合:年間所得「20万円」の壁は変わらず
会社員など本業の給与所得があり、副業としてウーバーイーツで配達している場合、基準はこれまでと変わりません。ウーバーイーツを含む給与以外の所得(雑所得または事業所得)の合計が年間20万円を超えた場合に確定申告が必要です。
注意点:副業所得が20万円以下で確定申告が不要な場合でも、住民税の申告は別途必要です。確定申告を行えば、その情報が市区町村に連携されるため住民税の申告は不要になりますが、確定申告をしない場合は、お住まいの市区町村役場で住民税の申告手続きを忘れないようにしましょう。
「所得」とは?収入との違いを理解する
確定申告の要否を判断する上で最も重要なのが「所得」の計算です。所得は、単純な売上(収入)ではありません。
所得 = 総収入金額 − 必要経費
総収入金額とは、ウーバーイーツから支払われる配達報酬やチップなどの合計額です。ここから、配達のためにかかった「必要経費」を差し引いた金額が、課税対象となる「所得」となります。したがって、経費を漏れなく計上することが、正しい納税額を計算し、節税する上で極めて重要になります。
事業所得 vs 雑所得:あなたの収入はどちら?節税効果の違い
ウーバーイーツで得た所得は、その働き方によって「事業所得」または「雑所得」のいずれかに分類されます。どちらに該当するかで、受けられる税制上のメリットが大きく異なるため、正しく理解しておくことが重要です。
| 項目 | 事業所得 | 雑所得 |
|---|---|---|
| 青色申告 | 可能(最大65万円の特別控除あり) | 不可 |
| 赤字の繰越(損益通算) | 可能(最大3年間) | 不可(雑所得内での通算は可) |
| 家族への給与 | 専従者給与として経費にできる | 不可 |
| 帳簿付け | 義務(複式簿記または簡易簿記) | 簡易的な記録で可(※) |
※令和4年分から、前々年の業務に係る雑所得の収入が300万円を超える場合は現金預金取引等関係書類の保存が義務化されています。
事業所得のメリット:青色申告で最大65万円控除
「事業所得」とは、その仕事をメインとして継続的・反復的に行い、生計を立てている場合に適用される所得区分です。
事業所得として申告する最大のメリットは、「青色申告」を選択できる点です。青色申告を行うには、事前に税務署へ「開業届」と「青色申告承認申請書」を提出する必要がありますが、以下のような強力な節税メリットがあります。
- 青色申告特別控除:複式簿記で記帳し、e-Taxで申告するなどの要件を満たせば、所得から最大65万円を控除できます。
- 純損失の繰越控除:事業が赤字になった場合、その損失を翌年以降3年間にわたって繰り越し、将来の黒字と相殺できます。
専業でウーバーイーツの配達を行っている方は、事業所得として申告することで、税負担を大幅に軽減できる可能性があります。
雑所得とは?副業配達員の多くが該当
「雑所得」とは、他の9種類の所得区分のいずれにも当てはまらない所得を指し、一般的に副業や一時的な収入がこれに該当します。
会社員が空いた時間に行うウーバーイーツの配達収入は、多くの場合「雑所得」として扱われます。雑所得の場合、青色申告のような特別な控除はありませんが、確定申告の手続きは比較的シンプルです。
どちらに該当するかの判断基準
事業所得か雑所得かの明確な線引きは難しいですが、税務署は以下の要素を総合的に勘案して判断します。
- 営利性・継続性:利益を目的とし、継続的・反復的に行われているか。
- 自己の危険と計算:自身の責任と計画のもとで事業を遂行しているか。
- 時間や労力の投入度:相当な時間を費やしているか。
- 社会的地位:客観的に「事業」として認知される程度の活動か。
基本的には「それで生計を立てているか」が大きな判断材料となります。副業であっても、収入が大きく、継続的に相当な時間を費やしている場合は事業所得と認められるケースもあります。
【2025年税制改正】基礎控除の仕組みが変わる!
2025年(令和7年)分の所得税から適用される税制改正の中でも、特に重要なのが「基礎控除」の見直しです。これまでは所得にかかわらず一律48万円でしたが、改正後は所得金額に応じて控除額が変動する仕組みになります。
このグラフが示すように、合計所得金額が132万円以下の納税者は、基礎控除が95万円まで大幅に引き上げられます。これは、年収200万円程度の給与所得者と同程度の所得水準の人々を対象とした措置です。
この改正により、これまで所得48万円を超えていたために確定申告が必要だった専業配達員の一部が、申告不要になる可能性があります。自身の年間の所得見込み額と、どの控除額に該当するのかを把握することが、これまで以上に重要になります。
また、この改正に伴い、配偶者控除や扶養控除の対象となる親族の所得要件も、従来の48万円以下から58万円以下に緩和されます。これにより、家族を扶養している配達員にとっては、節税メリットを維持しやすくなります。
節税の鍵!経費にできるもの・できないもの完全リスト
所得税は「収入」ではなく「所得(収入-経費)」に対して課税されます。つまり、経費を漏れなく計上することが、合法的な節税の最も効果的な方法です。経費として認められるのは、「ウーバーイーツの配達業務で収入を得るために直接必要だった費用」です。
経費にできるものの具体例
以下は、ウーバーイーツ配達員が経費として計上できる可能性のある費用の一般的な例です。
- 車両関連費:
- 自転車・バイクの購入費(※10万円以上は減価償却)
- 車両の修理代、メンテナンス費用(タイヤ交換など)
- ガソリン代、バイクのオイル代
- 駐輪場代、駐車場代
- 通信・備品費:
- スマートフォンの通信費(※家事按分が必要)
- モバイルバッテリー、スマホホルダーの購入費
- 配達用バッグ(公式バッグ以外)、保温・保冷バッグ
- 雨具(レインウェア)、ヘルメット、手袋など
- 手数料・保険料:
- Uberへのサービス手数料(支払明細書で確認)
- 任意で加入した損害保険料(自転車保険など)
減価償却とは?
購入費用が10万円以上の自転車やバイクなどの資産は、購入した年に全額を経費にすることはできません。法で定められた耐用年数(自転車は2年)にわたって、分割して経費計上します。これを「減価償却」といいます。ただし、青色申告者であれば30万円未満の資産を一度に経費計上できる「少額減価償却資産の特例」も利用可能です。
プライベートと共用する場合の「家事按分」
スマートフォンやバイクを、配達業務だけでなくプライベートでも使用している場合、その費用全額を経費にすることはできません。業務で使用した割合に応じて費用を分ける必要があり、これを「家事按分(かじあんぶん)」といいます。
例えば、スマートフォンの通信費が月1万円で、使用時間のうち40%を配達業務で使っている場合、経費として計上できるのは「1万円 × 40% = 4,000円」となります。この割合は、使用時間や走行距離など、合理的な基準で説明できるようにしておく必要があります。
証拠が命!領収書・レシートの保管義務
経費を計上するためには、その支払いを証明する領収書やレシート、クレジットカードの明細書などの証拠書類が不可欠です。これらの書類は、法律で原則7年間(白色申告者は5年間)の保管が義務付けられています。税務調査が入った際に提示を求められるため、必ず整理して保管しておきましょう。
確定申告のやり方:5つのステップ
確定申告と聞くと難しく感じるかもしれませんが、手順を追って進めれば個人でも十分可能です。2025年分の確定申告(2026年提出)の一般的な流れは以下の通りです。
Step 1: 必要書類を準備する
申告前に以下の書類を揃えましょう。
- 収入に関する書類:Uberのパートナーダッシュボードからダウンロードできる週ごとの支払明細書。
- 経費に関する書類:1年分の領収書やレシート。
- 所得控除に関する書類:生命保険料控除証明書、医療費の領収書など。
- 本人確認書類:マイナンバーカード(または通知カード+運転免許証など)。
- 源泉徴収票:副業の場合、勤務先から発行されるもの。
Step 2: 帳簿を作成する
日々の収入と経費を記録し、1年間の合計額を集計します。手書きでも可能ですが、会計ソフト(freee、マネーフォワード クラウド会計など)を利用すると、計算ミスも防げ、作業が格段に楽になります。青色申告(65万円控除)を目指す場合は、複式簿記での記帳が必須です。
Step 3: 確定申告書を作成する
帳簿の内容を基に、確定申告書を作成します。国税庁のウェブサイト「確定申告書等作成コーナー」を利用すれば、画面の案内に従って数値を入力するだけで、自動的に税額が計算され、申告書が完成します。初心者でも使いやすく、非常におすすめです。
Step 4: 申告書を提出する
提出期間は、原則として所得を得た翌年の2月16日から3月15日までです(2025年分は2026年3月17日(月)まで)。提出方法は以下の3つです。
- e-Tax(電子申告):自宅からオンラインで提出可能。青色申告で65万円控除を受けるにはe-Taxが必須です。
- 郵送:管轄の税務署へ郵送します。
- 税務署へ持参:管轄の税務署の受付に直接提出します。
Step 5: 納税する
計算の結果、納めるべき税金がある場合は、申告期限と同じ日までに納税します。振替納税、クレジットカード、コンビニ納付など様々な方法があります。
無申告はなぜバレる?税務調査のリスクと重いペナルティ
「少額だからバレないだろう」と安易に考え、確定申告を怠るのは非常に危険です。税務署はあなたが考えている以上に、個人の収入を把握しています。
国税当局は近年、シェアリングエコノミーに対する監視を強化しており、Uber Japan株式会社に対して配達員全員の氏名、住所、年間取引額、振込先口座などの情報提供を要請しています。 これにより、税務署は誰がいくら稼いでいるかを正確に把握しており、無申告者は容易に特定されてしまいます。
無申告が発覚した場合、本来納めるべき税金に加えて、以下のような重いペナルティ(追徴課税)が課せられます。
- 無申告加算税:本来の税額に対し、最大で20%(悪質な場合は30%)が加算されます。
- 重加算税:意図的な所得隠しなど、特に悪質と判断された場合に課され、税率は35%~40%と非常に高くなります。
- 延滞税:納付期限の翌日から完納する日までの日数に応じて、年率最大14.6%の利息に相当する税金が課されます。
自主的に期限後申告をすれば加算税が軽減される場合もあります。無申告のリスクは計り知れません。必ず期限内に正しい申告を行いましょう。
よくある質問(FAQ)
- Q1. Uberは税金を源泉徴収してくれますか?
- いいえ。Uberと配達パートナーは雇用契約ではなく、個人事業主としての業務委託契約です。そのため、Uberが報酬から所得税を天引き(源泉徴収)することはありません。配達員自身が確定申告を行い、納税する義務があります。
- Q2. 消費税を納める必要はありますか?
- 消費税の納税義務は、原則として2年前の課税売上高が1,000万円を超えた場合に発生します。多くの配達員は免税事業者となりますが、インボイス制度への登録を選択した場合は、売上にかかわらず課税事業者となります。自身の売上規模を確認し、必要であれば税務署に届け出ましょう。
- Q3. 確定申告が不要でも、申告した方が得なケースはありますか?
- はい、あります。青色申告をしている場合、事業が赤字であればその損失を申告することで、翌年以降の税金を安くできます(純損失の繰越控除)。また、もしウーバーイーツ以外の仕事で源泉徴収されている収入がある場合、確定申告をすることで払い過ぎた税金が戻ってくる(還付される)可能性があります。
まとめ:賢く稼ぐために、税金の知識は必須
Uber Eatsの配達パートナーという働き方は、自由度が高い一方で、個人事業主としての自己管理が求められます。特に税金に関しては、正しい知識を持つことが、不必要なペナルティを避け、手元に残るお金を最大化するための鍵となります。
この記事で解説したポイントをまとめます。
- 確定申告の要否:2025年分から専業は所得95万円超、副業は所得20万円超が目安。
- 所得区分:専業なら節税メリットの大きい「事業所得(青色申告)」を目指しましょう。
- 経費計上:配達に必要な費用は漏れなく経費として計上し、領収書は必ず保管しましょう。
- 無申告は厳禁:税務署はあなたの収入を把握しています。必ず期限内に申告しましょう。
2025年からの税制改正は、特に専業で働く配達員にとって大きな変更点です。これを機に自身の働き方と税金の関係を見直し、会計ソフトの導入や日々の記帳を習慣づけることをお勧めします。もし不安な点や不明な点があれば、税務署や税理士などの専門家に相談することも有効な手段です。



